昭利の一本道 [16] 太鼓への追い風を感じて

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 1988年(昭和63)は、日本という国にとっても、浅野太鼓にとっても、躍動感に満ちた年だった。まず日本の動きでは、本州の青森県今別町と北海道知内町を結ぶ海底トンネル大工事が竣工し、当時としては世界一の長さを誇った青函トンネルが3月1日に開通。次いで3月17日、球場やホールなどを備えた日本初の全天候型多目的スタジアムの東京ドームが開場。さらに4月10日、本州の岡山県倉敷市と四国の香川県坂出市を結び、鉄道道路併用橋としては「世界一長い鉄道道路併用橋」としてギネス世界記録にも認定された瀬戸大橋が開通した。

 それらのインフラ整備と肩を並べるように、文化的イベントとして『なら・シルクロード博覧会』『瀬戸大橋架橋記念博覧会』『ぎふ中部未来博覧会』などが相次いで開催。また当時の竹下総理のもと、バブル経済の中で全国の市区町村に対し地域振興のために1億円を交付した政策「自ら考え自ら行う地域づくり事業」(通称: ふるさと創生一億円事業)が翌1989年にかけて行われた。この地域振興策によって、太鼓で「町おこし・村おこし」をしようと各地の自治体が続々と名乗りを上げ、我が社は全国からの注文によって未曾有の忙しさとなった。今思えば、まさに「太鼓への追い風」のまっただ中に立っていた。

 そうした活気は私自身の細胞も活性化させ、毎朝4時には起床して現在進行形の目標に向かってフル稼働した。まず2年前から構想していた『太鼓の里』づくりは、「1.最新の設備を備え、かつ誰でも見学できる安全な工場の整備」「2.世界の打楽器を展示する資料館の建設」「3.宿泊も可能な太鼓練習場を備えたショールームの開館」という3本柱を策定。すでに前年には新工場が完成し、太鼓業界としては画期的な省力化と増産システムを実現していた。そしてこの88年9月1日、続く2本目の柱、『太鼓の里資料館』をオープン。白壁となまこ壁を組み合わせ、日本の伝統建築である土蔵をイメージした館内には、打楽器のルーツがあるアフリカをはじめ、アジア、中国、アメリカ、オセアニアなど、世界の打楽器数百点を展示。フロア中央に口径6尺の大太鼓を据え、入館者が見上げるような大きな太鼓を自由に打てるようにした。そしてこの2年後、3本目の柱である練習場のあるショールーム『新響館』を開館し、太鼓の里の全容が整った。

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(写真右より: 炎が打つ「大和」、資料館内のガムラン、資料館内)

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 その一方、資料館のオープンに先がけること1カ月半前の1988年7月15日、『太鼓の里』というハード構築に対してソフト面での新規事業もスタート。これも世界で唯一、太鼓に関する情報を集積した情報誌『たいころじい』第1巻を発刊した。というのも、1970年に佐渡で旗挙げした『佐渡の國鬼太鼓座』の創設に深くかかわった民俗学者の宮本常一が著書『忘れられた日本人』の中で述べていた「記憶されたものだけが、記録にとどめられる」という一節がなぜか忘れられず、いつのまにか「記録されたものしか、記憶にとどまらない」という私なりの確信に変わっていた。そして今歩き始めた太鼓文化を次の世代に伝えるには、「活字だ!」。活字によって情報が伝わり、人と人の思いが結ばれ、過去と現在、未来がつながる。本づくりにはまったくの素人だったが、幸いにも小野美枝子という信頼できる人材に編集を委ねることができ、以後『たいころじい』は2014年、第42巻まで続くことになる。 

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 さらにもう一つ、女性だけの太鼓チーム『炎太鼓』が始動したのもこのころだ。当時、太鼓を打つ女性は少数いたものの、大太鼓に限ってはほぼ男社会だった。だが、女が大太鼓を打ったら、どんな舞台ができるだろう。そう思ったら矢も楯もたまらず、折しも太鼓教室に通ってきていた地下朱美に声をかけた。二つ返事で話に乗ってきた地下は友人を誘い、まもなく二人だけのチームを結成。現在、『焱太鼓』の表記は『火』の文字を三つ重ねた『焱』だが、この時はメンバー二人ゆえに『火』が二つの『炎太鼓』だったのも、今は懐かしい。

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 ふと全国を見回せば、今に続く太鼓イベントが、あちこちで産声を上げていた。佐渡では8月15日、鬼太鼓座解体後に誕生した『鼓童』が、佐渡島小木町に正式に居を定めた「開村記念コンサート」として第1回の『アース・セレブレーション』を開催。岩手県では10月16日、『陸前高田全国太鼓フェスティバル』第1回が行われ、2011年の東日本大震災で被災した際も愛知県に会場を移して実施、コロナ禍以前の2019年まで毎年継続されてきた。
(右写真:1998年の第1回アースセレブレーション初日)